2024.09.24
一文字に込められた想い
私の好きなフランス映画の一つに、 『潜水服は蝶の夢を見る』という作品があります。 脳梗塞によって全身が麻痺状態になってしまった主人公の男性が、 唯一動かすことのできる左目の「まばたき」で、自身の経験を本にする…というストーリーです。 映画自体がその回想録をもとに作られているのですが、 まばたきしかできない体で、主人公がどのようにして文字を綴ったか想像できますか? 彼は言語療法士の力を借りて、独自のコミュニケーション方法を編み出しました。 それは医師(会話する相手)がアルファベットを一つずつ読み上げて、 自分の伝えたい文字のところでまばたきする、という方法です。 おそろしく気の遠くなるような作業ですが、 主人公はこうして約20万回繰り返された「まばたき」によって、 いわば「肉体に閉じ込められてしまった」、その胸の内を語ることに成功しました。 通信技術が発達した今の世の中で、 「言葉を重ねれば重ねるほど、伝えたい想いから遠のいてゆく」というもどかしさを、 誰もが味わったことがあるのではないでしょうか。 『潜水服は蝶の夢を見る』はそんな私たちに、 たった一文字を伝えることの尊さを教えてくれる、ユニークな作品です。